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活動報告

第3回パネルディスカッション「生成AIと行政の取り組み」パネルディスカッション

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●AI技術の進歩と"国として民間に期待すること"を理解~生成AIと行政の取り組み~
2つの基調講演に続いて、最後にAI技術の進歩に携わるソフトウェアベンダーと弁護士によるパネルディスカッションが開催されました。 モデレーターに株式会社BCNで週刊BCNの編集長を務める日高彰氏が、パネリストとしてアドビ株式会社のマーケティングマネージャー 轟 啓介氏、株式会社ピーエスシー取締役の福島孝之氏、三村小松法律事務所 弁護士の田邉幸太郎氏が登壇し、AI技術の進歩における著作権との最新の取り組みや法解釈が語られました。

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●パネリストの紹介と生成AIとの関わり方の現状
パネルディスカッションの冒頭で、パネラーの自己紹介と生成AIへの取り組みが紹介されました。

日高氏
パネラーの皆様の自己紹介をお願いします。

轟氏
アドビ株式会社でマーケティングを担当しています。仕事柄、クリエイターの方々と接する機会が多く、クリエイターの方々が生成AIに対してどう感じてるのか、肌感覚として分かっています。今日は、そうした経験も踏まえてお話をしていきたいと思います。

福島氏
約27年、ずっと技術畑を歩んできました。現在は、Microsoftに対する知見や技術を駆使して、Copilotの活用も含めてお客様企業をサポートしています。

田邉氏
三村松法律事務所の弁護士として11年目になります。メインの領域は知的財産になりますが、アニメやゲームなどのキャラクタービジネス領域の方をサポートさせていただくことが多いです。生成AIと「声」の権利の関係なども扱っています。

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日高氏
それでは、皆様の生成AIにおける現状の関わり方についてお話いただけるでしょうか。

森氏
Adobeでは、安全に商用利用できるクリエイティブAIとして、Adobe Fireflyを提供しています。Adobe Fireflyでは、用途に応じた生成AIモデルを展開し、クリエイターをサポートしています。Adobe Fireflyには、いろいろな機能が入っています。

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Firefly Image Modelでは、プロンプトで指示すると画像を生成できますが、Adobeではクリエイターの方々にプロント職人になって欲しいとは考えていません。Adobeでは、クリエイターにいろいろなコントロールの方法を用意して、より良いサービスを提供しようと思っています。

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Adobeでは、クリエイターの方々の今までのワークフローを壊すことなく、さらに効率化させるようなツールを提供していきたいと思います。また、PDFを編集するActobatでも画像を生成できたり、PDFの文章を要約できます。

福島氏
AIを活用したチャットボットを開発した経験があります。OpenAIが公開された2020年からは、社内での活用を実施してきました。また、MicrosoftのCopilotを使うようになってからは、PowerPointでの提案書作成や、Teamsによる議事録の生成などに活用しています。そして、自社活用から得られたノウハウをワークショップとして、多い時で月に10回ほどお客様に発信しています。

日高氏
著作権という観点からは、どのような現状にあるのでしょうか。

田邉氏
Stable DiffusionやChatGPTなどがリリースされてから少し時間が経った2023年の夏以降から、一気に色々な方が生成AIに関するトピックに関心を寄せるようになったという印象があります。他人事ではいられない、といった感じでの相談が多くなったと記憶しています。当初は法律の条文だけがある状態でしたので、その解釈に関する質問が多かったです。また、クリエイターの関係では、炎上に関する相談もありました。自分で書いたのに「AIで作っただろう」と言われるケースや、AIで作ったものを出したら批判される、といった相談もありました。

●生成AIが生み出す価値
日高氏
生成AIが生み出す価値について伺いたいのですが。クリエイティブやビジネスで、どのように役立っているのでしょうか。

轟氏
クリエイターの仕事の中には、撮影された画像に写り込んでいる電線を消すとか、地味な作業もあります。そういった作業にPhotoshopのAI機能を活用すると、簡単に処理できます。また、バナー広告に利用する画像の横幅が足りない、といったときにもFireflyを活用すると、簡単に希望するサイズを生成できます。反復的な作業の効率化において、生成AIの効果は大きいと思います。

日高氏
ビジネスの観点からは、いかがでしょうか。

福島氏
MicrosoftのAzure OpenAIを使って、税務相談に回答するチャットボットを開発しています。月に1回は新しい情報が国税庁のホームページに掲載されるので、その内容を収集して税務に関する問い合わせにAzure OpenAIで回答を生成する仕組みを構築しました。

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Azure Open AIとAzure AI Searchを組み合わせることで、税務相談だけではなく社内ナレッジを元にした回答も生成AIで対応できるようになります。

●生成AIの価値と著作権との関係
日高氏
生成AIがクリエイターやビジネスに価値を生み出すと理解しました。一方で、こうしたサービスを開発し提供しようとするときに、著作権との関係はどのようになるのでしょうか。

轟氏
Adobeでは、学習データセットに著作権の問題がないものを使っています。Adobeがサービスとして展開しているストック画像や動画を利用しています。また、すでに著作権が失効しているパブリックの学習データセットも使っています。さらに、Adobeのストック画像の監視体制も強化しています。不適切な画像を排除して、クリーンな状態を確立しています。学習データセットの透明性を保つことで、クリエイターの方々にも安心して使っていただけると思いますし、画像系の生成AIとしての大きな差別化になります。

日高氏
業務での活用についてはいかがでしょうか。

福島氏
2024年に受託した事業では、画像サンプルやアイコンなどをフリー素材に頼らず、著作権に違反しないようにすべて生成AIで作り変えました。

日高氏
ユーザーの立場から考えたときに、何のデータを学習しているかわからないサービスを利用したときに、著作権の問題は発生するのでしょうか。

田邉氏
データの透明性が確保されていない生成AIを利用していくと、損害賠償のリスクが発生する可能性もあります。そうしたリスクを含んだ生成AIによる成果物を別のお客様に納品してしまうと、信用を失墜してしまいます。著作権を侵害しないためには、透明性との関係が重要になってきます。リスクを低減するためには、リテラシーを高めていくことも大事です。類似した画像ではないか、画像検索をかけて調べてみるとか、リスクを低減する取り組みを実践しているサービスを選ぶなど、自衛の措置も必要です。また、依拠性に関する見解ですが、学習データや生成の仕組みが外部から見えない状況においては、学習に用いられたデータの創作的表現が出力される状態となっているのか、いないのかが分かりません。AIの依拠が否定されるかどうか不明なので、基本的には依拠性が認められる方向で保守的に考えざるを得ないと思います。

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●今後の生成AI活用の拡大に向けて
日高氏
生成AI技術をさらにユーザーに利用してもらうため、どのような取り組みが必要と考えられますか。

轟氏
商用利用を目的とした意図的なAIの悪用からクリエイターの経済的被害を守るために、アドビは米国連邦議会にFAIR法を提案しています。かつて、前の世代の作品やスタイルを模倣することで独自のスタイルを生み出す進化が見られたように、AIの時代でもクリエイターの権利を守りつつ、デジタル世界におけるスタイルの革新を促すグローバルな取り組みが必要だと考えています。

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日高氏
Wordの資料作成など業務におけるAIの効率化については、どうなるでしょうか。

福島氏
生成AIによる効率化は、まだまだ広がっていくと感じています。Pythonなどでのプログラミングも、生成AIを活用すると半分以下の時間でコードを生成できます。現在は社内利用が中心ですが、今後、生成AIを使って開発したアプリをお客様に提供するようになったときに、著作権の問題が生じるのか少し危惧しています。

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田邉氏
ソフトウェアシステムの開発にAIを活用する際、プログラム固有の著作権問題は特にはないものの、生成されたコードが著作物に当たるか否かは検討が必要となります。類似しているものをAIが生成して、それを知らずに利用してしまって侵害となるリスクが考えられます。オープンソース(OSS)が広く利用されている現在では、生成AIがOSSのコードを学習している可能性もあります。その場合には、OSSのライセンス規約の遵守が重要です。生成AI時代におけるOSSとの付き合い方という観点から、学習データが不明瞭なAIによるコード生成はリスクを伴うので、開発にも透明性が求められます。今後は、学習ソースの開示や透明性といった議論が求められるのではないでしょうか。

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日高氏
生成AIを利用した制作物について、ユーザーは自社の権利を主張できるのでしょうか。どの程度プロンプトを工夫すれば権利を主張できると考えますか。

田邉氏
米国では、AI生成物の著作権登録が拒否される例が見られる一方で、中国では一般的な指示を含むプロンプトでも著作物として認められる判例があります。弁護士の見解としては、日本においては単に長いだけのプロンプトでは著作権を認めるべきではなく、もっと具体的で詳細な指示が必要だと考えています。中国の例のように緩やかに著作権を認め過ぎると、新しいものが作りにくい環境になる懸念も示されています。国によってAI生成物の著作権に対する判断が異なるので、線引きが難しい現状です。

●信頼される生成AIに求められる透明性と証明
日高氏
知財やITに携わる人が生成AIに取り組む意義や、生成AIの活用を進めるために、業界として考えなければいけないルール作りやテクノロジーなどについて、ご意見をいただけるでしょうか。

轟氏
Adobeでは、デジタルコンテンツの透明性を確保するための取り組みを推進しています。

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2019年のCAI(Content Authenticity Initiative:コンテンツ認証イニシアチブ)設立から、Adobeはデジタルコンテンツの透明性を確保するための業界標準として、Content Credentials(コンテンツ認証情報)の普及を推進しています。クリエイターが作品を保護し、認証表示を受けられる無料のwebアプリケーション「Adobe Content Authenticity」では、Photoshop で作られた画像が食品の成分表のように「どんなツールで、いつ誰が作ったか」というデジタルデータの来歴を検証できるようにしています。また、「DO NOT TRAIN」タグの付与もサポートして、クリエイターの権利が守られる社会を皆さんと一緒に作っていきたいと考えています。

福島氏
今年は、ハードウェアの障害を検知するシステムと生成AIを組み合わせて、故障を予測するAIを開発しようと考えています。また、著作権を侵害しているか簡単に判断できるような生成AIを開発したいと考えています。

日高氏
生成AIを誰もが活用する時代になっていると思いますが、法律の観点からビジネスパーソンが身につけておくべき考え方や教育について、コメントをいただけますか。

田邉氏
法律だけでは限界があります。透明性の確保や権利元との対話を通じて、新しい技術を適切に活用する考え方が重要になるでしょう。また、人材育成の観点からも、生成AIが人間に対して与える影響などについても、深く考えて意識を向けていくことが重要だと捉えています。弁護士の立場からは、AIの法的な側面だけでなく、倫理的な側面や社会的な影響についても意識を高める必要性があると受け止めています。

日高氏
生成AIの活用と著作権を保護していくためには、法的な取り組みに加えて、コンテンツ認証イニシアチブのようにテクノロジーで学習されるデジタルデータや生成されたコンテンツの透明性と真正性を確保する取り組みも必要だと感じました。今回は、ありがとうございました。

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