第3回パネルディスカッション「生成AIと行政の取り組み」基調講演2「AIと著作権について」
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基調講演の2つめでは、文化庁著作権課の持永 新 氏が登壇し、AIと著作権に対する文化庁の取り組みや指針について講演しました。急速に進化する生成AIは、社会や暮らしに大きな変革をもたらしています。その一方で、AIが生成するコンテンツと著作権との関係が曖昧になり、様々な議論を呼んでいます。持永氏は、AIと著作権に関する最新の行政の状況や現状と懸念、そして今後の方策について解説しました。
●AIと著作権についての基本的な考え方
講演の冒頭で持永氏は、AIと著作権についての基本的な考え方として、一枚のチャートを示します。
一般的な生成AIの開発から利用までの流れでは、学習の段階で「学習用データ」が複製されます。また、学習用プログラムが「学習用データセット」を利用する段階でも、データの複製が行われます。そして、学習済みモデルが利用される段階で、プロンプトなどの指示が生成AIに複製され、出力されたAI生成物が既存の著作物との類似性や依拠性がある場合に「複製」が行われ、インターネットなどの公衆送信などを通して公開されます。持永氏は「この流れの中で、著作権法上で関係してくる規定が、著作権法の弟30条の4となります」と指摘します。
著作権法第30条の4では、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用においては、利権を害さないと認めています。持永氏は「AI開発・学習の段階と、生成・利用の段階では、著作物の利用行為が異なるため、関係する著作権法の条文が異なります。そのため、両者は分けて考える必要があります」と解説し、その違いを次のように整理します。
AIと著作権の関係では、開発・学習段階と生成・利用段階で適用される著作権法の権利制限規定が異なります。AI開発・学習段階では、著作物を学習用データとして収集・複製し、学習用データセットを作成し、データセットを学習に利用してAIを開発します。この段階では、著作権法第30条の4が適用されれば、著作権者の許諾を得る必要はありません。
一方、生成・利用段階では、AIを利用して画像などを作成したり、生成した画像などをアップロードして公表したり、生成した画像などの生成物を販売したりします。この段階では、AIを利用せずに作成したものと同様に、通常の著作物と同様に著作権侵害が判断されます。既存の著作物に類似している場合には、権利制限規定の適用なく著作権者の許諾を得ずに利用したら著作権侵害となります。
●「AIと著作権に関する考え方について」が公表された背景
2023年5月に生成AIと著作権法の弟30条の4における解釈が示されると、関係者から文化庁に懸念の声が寄せられました。クリエイターからは「どこまでが30条の4が適用されるのか」という懸念と共に、「著作物等がAI開発・学習に無断で利用されている」とか「海賊版等、違法にアップロードされているものも学習されてしまう」のような意見が示されました。
また、AI開発・サービス提供事業者からは「AI開発・学習に際して許諾なく著作物を利用できる範囲が明確でない」という指摘もありました。
一方、生成AIの利用段階においても「AI生成物の生成や、AI生成物の利用が著作権侵害となるのはどのような場合か」や「侵害に対してはどのような措置が可能か」といった質問が寄せられました。そして、生成AIの利用者からも「AI生成物は、どのような場合に『著作物』として保護されるのか」という懸念も出ていました。パブリックコメントでは、述べ 2万4938 件の意見が寄せられました。
こうした意見や懸念を踏まえて、文化庁では令和5年7月から「文化審議会著作権分科会法制度小委員会」を通して、「AIと著作権に関する考え方について」議論を重ね、令和6年3月15日に公表しました。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf
●「AIと著作権に関する考え方について」が公表された背景
公表された「AIと著作権に関する考え方について」の概要は、AI開発・学習段階と生成・利用段階に分けられています。
AI開発・学習段階では、「非享受目的」要件を満たさないケースについて、以下のような場合は、法第30条の4は適用されないと考えられます。
・生成AIの基盤モデルに対する追加学習(ファインチューニング)のうち、意図的な「過学習」等、学習データである著作物の類似物(創作的表現が共通したもの)を生成させる目的での学習データ(著作物)の収集
・一部の検索拡張生成(RAG)等で用いるための、生成AIへの入力用データ(著作物)の収集
また、「作風」が「アイデア」である場合は、そのような「作風」が共通したとしても、著作権侵害とはなりません。その一方で、特定のクリエイターを狙い撃ちしたAI学習には、法第30条の4が適用されない場合があると考えられます。さらに、第30条の4ただし書では「著作権者の利益を不当に害することとなる場合について」も触れています。
一方、生成・利用段階では、著作権侵害となるための要件としては、既存の著作物との「類似性」と「依拠性」が必要になります。「既存の著作物と類似性のあるAI生成物」が生成された場合の依拠性については、以下のように考えられます。
「類似性」や「依拠性」が確認されて侵害を受けた権利者は、生成AIを利用し著作権侵害をした者に対して「新たな侵害物の生成の差止め」、「既に生成された侵害物の利用(インターネット配信など)の差止め」といった差止請求や、侵害行為により生成された生成物の廃棄請求が可能です。また、既存の判例からすると、生成物の生成・利用に伴って著作権侵害が生じた場合、AI利用者だけでなく、AI開発等を行う事業者が、著作権侵害の主体として責任を負う可能性があります。そして、AI生成物の著作物性は、個々のAI生成物について、個別具体的な事情に応じて判断されます。具体的には、AI利用者の行為のうち、単なる労力にとどまらない「創作的寄与」となり得るものがどの程度積み重なっているかなどを総合的に考慮します。
●AIと著作権に関する今後の取り組みとチェックリスト&ガイダンス
文化庁の今後の取り組みについて、持永氏は次の4点を紹介します。
1.現行の著作権制度に関する基本的な考え方や、本考え方で取りまとめられたAIと著作権に関する現行の著作権法の解釈について、文化庁における、分かりやすい形での更なる周知啓発
2.著作権侵害に関する判例等の蓄積や、AI関連技術の発展、諸外国における立法や検討の進展に関する情報の把握・収集
3.AIの開発や利用によって生じた著作権侵害や、これが疑われる事案について、相談窓口等を通じた事案の集積
4.生成AIやこれに関連する技術・仕組みの概要や、クリエイター等の権利者が自らの著作物等についてどのような形で利用されたい、あるいは利用されたくないと思っているのか、といった点に関する共通理解の醸成に向けた、関係当事者の間における適切なコミュニケーションの実現
講演の最後に持永氏は「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」を紹介しました。同資料は、著作権と生成AIとの関係で生じるリスクの低減や、自らの権利を保全・行使する上で望ましいと考えられる取組みを、生成AIに関係する当事者(ステークホルダー)の立場ごとに解説しています。その構成は以下のようになっています。
1.AI開発者のリスク低減方策
2.AI提供者のリスク低減方策
3.AI利用者(業務利用者)のリスク低減方策
4.業務外利用者(一般利用者)のリスク低減方策
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/seisaku/r06_02/pdf/94089701_05.pdf
<参考>
●インターネット上の海賊版による著作権侵害対策についての相談窓口(「インターネット上の海賊版による著作権侵害対策情報ポータルサイト」内)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/kaizoku/index.html
●文化芸術活動に関する法律相談窓口
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/kibankyoka/madoguchi/index.html
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