第3回パネルディスカッション「生成AIと行政の取り組み」基調講演1「我が国のAI制度について」
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日本のAI戦略、国際競争力強化とリスク管理の両立へ
内閣府 科学技術イノベーション推進事務局の中越氏が登壇し、「我が国のAI制度について」と題した講演を行いました。講演では、日本のAI戦略と、国際競争力強化とリスク管理の両立に向けた取り組みが紹介されました。生成AIの急速な発展と国際的な議論の活発化を踏まえ、日本のAI戦略についての詳細な説明と、技術革新の推進とリスク管理の両立を目指し、国際社会でのリーダーシップを発揮する姿勢が示されました。
●進化する生成AIのメリットとリスク
講演の冒頭で、中越氏は「近年、AI技術は目覚ましい進化を遂げています。特に生成AIの登場は、社会に大きな影響を与えています。テキストベースの翻訳や文章要約から始まり、画像や動画の生成へと多岐にわたる分野で活用されています。AIの性能も飛躍的に向上し、知識や問題解決能力は専門家レベルに達していると評価されています。そして、2022年の『ChatGPT』の登場により、AIへの注目は一段と高まりました」と経緯を整理し、「AI技術は、作業の効率化や労働力不足の解消に貢献するだけでなく、データ間の複雑な関係性を瞬時に見つけ出す能力を持っています。新薬開発など、人間の能力を超える活用も期待されています。その一方で、偽情報の作成や個人情報の漏洩といったリスクも存在します。技術の悪用を防ぐため、メリットとリスクを十分に考慮しながら活用していく必要があります」と課題を指摘します。
●AIを巡る国際的な動向と日本の取り組み
AIを巡る国際的な動向として、2023年のG7広島サミットで提唱された「広島AIプロセス」をはじめとして、各国での取り組みが紹介されました。EUでは、2024年にAI法案が採択され、2025年2月にはフランスでAIサミットが開催されました。また、IGF(Internet Governance Forum)京都2023ではAI特別セッションが設けられ、GPAI(Global Partnership on AI)東京センターも開設されました。さらに、OECD閣僚理事会の「⽣成AIに関するサイドイベント」で当時の岸田総理大臣がスピーチし、国連の未来サミット2024において、「グローバル・デジタル・コンパクト」が採択されました。中越氏は「米国は、トランプ政権になり方針が定まっていないのですが、AIにおける米国のリーダーシップへの障壁を取り除く⼤統領令が発令されています」と説明します。
日本における具体的な取り組みとしては、2019年に公表された「人間中心のAI社会原則」や、G7広島サミットで策定された「全ての AI 関係者向けの広島プロセス国際指針」が紹介されました。
① AI ライフサイクル全体にわたるリスクを特定、評価、軽減する措置を講じる
② 市場投入を含む導入後、脆弱性、及び必要に応じて悪用されたインシデントやパターンを特定し、緩和する
③ 高度な AI システムの能力、限界、適切・不適切な使用領域を公表し、十分な透明性の確保を支援する
④ 産業界、政府、市民社会、学界を含む、高度な AI システムを開発する組織間での責任ある情報共有とインシデントの報告に向けて取り組む
⑤ 特に高度な AI システム開発者に向けた、個人情報保護方針及び緩和策を含む、リスクベースのアプローチに基づく AI ガバナンス及びリスク管理方針を策定し、実施し、開示する
⑥ AI のライフサイクル全体にわたり、物理的セキュリティ、サイバーセキュリティ、内部脅威に対する安全対策を含む、強固なセキュリティ管理に投資し、実施する
⑦ 技術的に可能な場合は、電子透かしやその他の技術等、ユーザーが AI が生成したコンテンツを識別できるようにするための、信頼できるコンテンツ認証及び来歴のメカニズムを開発し、導入する
⑧ 社会的、安全、セキュリティ上のリスクを軽減するための研究を優先し、効果的な軽減策への投資を優先する
⑨ 世界の最大の課題、特に気候危機、世界保健、教育等(ただしこれらに限定されない)に対処するため、高度な AI システムの開発を優先する
⑩ 国際的な技術規格の開発を推進し、適切な場合にはその採用を推進する
⑪ 適切なデータインプット対策を実施し、個人データ及び知的財産を保護する
⑫ 高度な AI システムの信頼でき責任ある利用を促進し、貢献する
●日本のAI政策の全体像とAI戦略
広島G7サミットで「広島AIプロセス」を主導し、国際的なガバナンスの枠組み作りを提案した日本では、2019年に人間中心のAI開発やプライバシー保護などを推進する「AI社会原則」を策定し、2022年には内閣府が「AI戦略2022」を発表してきました。2023年には有識者による「AI戦略会議」が、2024年には大臣や関係省庁局長級による「AI戦略推進関係省庁会議」が行われてきました。「AI戦略会議」の傘下に設けられた「AI制度研究会」では、大学教授や弁護士に民間企業の専門家などが議論を重ね、2024年12月に中間とりまとめ(案)を策定し、パブリックコメントを実施しました。中間とりまとめでは、AIは我が国の発展に⼤きく寄与する可能性がある⼀⽅、様々なリスクが顕在化し、AIに対する不安の声が多く、諸外国と⽐べても開発・活⽤が進んでいない、との指摘から「AIの透明性など、適正性を確保し、AIの開発・活⽤を進める必要がある」と捉えています。そして、イノベーション促進とリスク対応の両⽴に、国際協調を基本的な考え方として、具体的な制度・施策の⽅向性をとりまとめています。中越氏は「世界で最もAIを開発・活⽤しやすい国を⽬指すために、世界のモデルになるような速やかな法制度化が必要になります」と説明します。
世界のモデルとなる法制度を構築するために、⼈⼯知能関連技術の研究開発及び活⽤の推進に関する法律案(AI法案)が、2025年3月に閣議決定し国会に提出されました。AI法案は、研究開発の推進や人材育成、国際規範に沿った自主的な取り組みの促進などを規定しています。
中越氏は「AI法案が今回の通常国会でご審議いただいて、成立させていただき、日本がAIを開発しやすい環境を整備し、国際競争力を強化していただきたい」と期待を述べました。
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