第1回パネルディスカッション「生成AIと声」前編
●AI技術の進歩+著作権に関わる業界の現状を理解 パネルディスカッションの開催にあたり、一般社団法人コンピューターソフトウェア著作権協会の和田成史 理事長が、開会の挨拶を行いました。 和田氏は「生成AIが登場して、それによりいろいろな課題が生まれ始めています。生成AIにより、いろいろなものが創出されていく中で、何らかの形で人の権利を侵害してしまう状態が、これから発生していくと思います。そこで、当協会としても原点に戻って、AI技術の進歩と著作権について議論していく必要があると受け止めています」と開催の趣旨を語りました。 続いて、モデレーターを務めるACCS専務理事の久保田裕氏がパネリストを紹介しました。 「生成AIと声」をテーマに招かれたパネリストは、(協)日本俳優連合 副理事長の池水 通洋氏、三村小松法律事務所の田邉 幸太郎 弁護士、そしてサイバートラスト(株)でオープンソース最高責任者を務める鈴木 崇文氏の3名です。 池水氏は1970年代から日本の著名なアニメの声優として活躍し、洋画の吹き替えやナレーションなど、幅広い「声」の仕事でキャリアを積み、日本俳優連合の専務理事として、生成AIと著作権の問題に取り組んでいます。 池水氏 日本俳優連合には、約2,500名ほどの俳優や声優たちが個人の資格で所属しています。前理事長は西田敏行で、組合員は舞台や映画にテレビやアニメ、ゲームやCMなどさまざまな分野で活躍しています。しかし、日本では映像の分野で仕事に関する法的権利の関係が整備されていないので、諸外国に比べて俳優や声優の置かれている立場は厳しいと受け止めています。現在は、「声」の分野で活躍する俳優や声優の活躍が目立っており、約7割の組合員が音声の仕事をやるようになっております。本日のテーマである生成AIと著作権では、組合員の「声」が無断に採取され、AIによって勝手に歌わされたり、喋らされたり、違法に販売されたりと、メチャクチャな状況です。このままでは、声優業界の仕事は壊されてしまうので日本俳優連合として「AIと著作権」に関する意見を文化庁に提出するなどの活動を行っております。 田邉氏 ずっとアニメや漫画にゲームが好きで、その影響もあり現在はキャリクタービジネスの領域を中心に弁護士業を請け負っています。それと合わせて、内閣府の知的財産戦略推進事務局にも非常勤として勤務して、AIに関する諸問題について対応しています。 鈴木氏 オープンソース最高責任者(COSO)という役割は、オープンソースのコミュニティや企業と連携しながら、オープンソースの活用と発展を推進する役目を担っています。オープンソースは、誰でも無料で利用できるプログラムですが、目先のことだけを考えて一方的に使い続けていくと終わってしまいます。そこで、持続可能なオープンソースのエコシステムを維持するために、オープンソースを利用する企業や営利団体にもコミュニティに参画してもらい、貢献してもらうための働きかけを推進しています。AIも数多くのオープンソースが使われているので、持続性という観点からも提言できたらと思っています。 ●生成AIの著作権の現状と課題の整理 久保田氏 それでは、1つ目の「生成AIの著作権の現状と課題の整理」というテーマについて議論していきたいと思います。まずは、声優として長いキャリアをお持ちで、アンソニー・ホプキンスの吹き替えや、NHKのクローズアップ現代のナレーションなどで活躍されてきた池水さんに、課題についてお話いただけるでしょうか。 池水氏 声優が求められるようになった背景には、昭和28年にスタートした日本のテレビ放送があります。当時は、海外から番組を輸入して日本語版を作って放送していました。そのときに、日本語の字幕スーパーには大変な手間とお金がかかるので、日本語吹き替えの需要が増えて、新劇の俳優を中心に「声」の仕事が広がりました。さらに、昭和38年にテレビアニメの鉄腕アトムの放送が始まると、さらに需要は拡大しました。ただ、当時の手塚先生が、ご自身の原作料も制作費に加えずに、低価格で請け負っていたので、その後のアニメ制作は低予算が定着してしまいました。 そこで、昭和48年に俳優による歴史上初のデモが成功し、出演料などが改善されました。その後も、昭和53年に外国映画日本語版のリピート問題の解決や、昭和56年のアニメ協定など、日本俳優連合は演者の権利や収益を守るために運動を続けてきました。若い声優たちは、現在では守られるのは当たり前だと考えていますが、油断すると自然と状況は変化してしまいます。そんなときに、生成AIで声優の「声」が勝手に使われる問題が起きました。 久保田氏 大変貴重な情報をありがとうございます。池水さんのお話を受けて、専門家の立場から田邉さんのご意見をいただけるでしょうか。 田邉氏 法的な対応という観点から、いくつか過去の判例や著作権法について整理してみたいと思います。 まず、著作権法では、著作物は思想または感情を創作的に表現したものと定義され、アニメ作品などは保護されています。しかし「声」それ自体は表現手段であって、著作物ではないのです。 次に、AI学習と著作権法のポイントについて整理します。AIの開発には、著作物や実演などの膨大なデータの収集が必要になるため、著作権の権利者に了解をもらうのが法律の大原則です。ただし、102条1項に「自ら享受し、他人に享受するのを目的としない限り」と書かれていて、生成AIによって出力された表現が異なっていると、著作物でも実演でもなくなります。そのため、学習すること自体は著作権の侵害にならないのです。 久保田氏 田邉さんのお話ですと、どうやら学習はできてしまいそうですね。著作権の話として、オープンソースもフリーソフトでコピーレフトだから、コピーしても何してもタダだよ、というイメージが持たれているようですが、そのあたり鈴木さんはどのように捉えていますか。 鈴木氏 オープンソースには、10項目の定義があります。 ・再頒布の自由 ・ソースコードの公開 ・派生ソフトウェアの作成と配布 ・作者のソースコードの完全性 ・個人やグループに対する差別の禁止 ・利用する分野に対する差別の禁止 ・ライセンスの分配 ・特定製品でのみ有効なライセンスの禁止 ・他のソフトウェアを制限するライセンスの禁止 ・ライセンスは技術的に中立であること この定義を誤解して、自由に何でもやっていいんじゃないか、と思われがちですが、そんなことはありません。オープンソースは、著作権法の上に成り立っています。オープンソースだからといって、勝手に持ってきて、そのライセンスを無視して自由に使うことはできません。 中編へ→
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