組織内におけるソフトウェアの不正コピーで役員の個人責任を認める初の判決
2003/10/23 更新
(社)コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)
専務理事 久保田 裕
本日(2003年10月23日)、ACCS、BSA(ビジネス・ソフトウェア・アライアンス)の会員であるアドビシステムズインコーポレーテッド、クォークインク、マイクロソフトコーポレーションの3社が、大阪を中心にコンピュータスクールを経営する株式会社ヘルプデスク(成重義浩代表)らに対し、2002年9月3日に損害賠償を求めて訴訟を提起した事件に関して、大阪地方裁判所(小松一雄裁判長)は、ソフトメーカーの主張をほぼ認めて、会社と代表者に対して総額約3,878万円の損害賠償を命じる判決を言い渡しました。ソフトメーカー3社は、ACCS、BSAの不正コピーに関する情報受付窓口に寄せられた情報を発端として、2000年5月、大阪地裁に証拠保全の申し立てを行い、コンピュータスクール内でのソフトウェアの不正コピーによる著作権の侵害を理由として、今回の訴訟を提起していました。
今回の判決は、会社自体に損害賠償責任があるだけでなく、会社の役員(代表者)についても「代表取締役である被告成重としても、その職務上、自己又はその被告会社従業員をして、本件プログラムの違法複製を行わないように注意すべき義務があったのにこれを怠り、被告成重は、本件プログラムの違法複製を行ったか又はその被告会社従業員がこれを行うのを漫然と放置していた」「本件プログラムの違法複製の防止に関する管理体制が不備であった」として、損害賠償責任があることを認めました。このことは、会社の役員には、ソフトウェアを使用する際に、不正コピーが行われないようにする注意義務があることを意味しており、今後は、役員自らが率先して不正コピーを防止し、企業のコンプライアンスが確保されることが期待されるという意味で特筆すべき判決内容となっています。
また、今回の判決では、実際にソフトウェアがインストールされていた場合だけでなく、証拠保全時には既にパソコンから消去されていた場合であっても、インストールされていた痕跡が認められる場合(各パソコンに痕跡が残っている場合と、パソコンの利用状況などから痕跡が認められる場合)には、ソフトウェアのインストールがあったものと認定されています。
コンピュータソフトに代表されるデジタル情報は、不正コピーが発覚しても、指摘を受けた直後に消去することが可能で、それが不正コピーの一因であるとの指摘がされていました(本件でも、「不自然な痕跡が多数残されているのであって、このような痕跡は、被告らにおいて本件証拠保全手続きを契機として、短時間のうちに異常なプログラム消去を行おうとしたためであると推認せざるを得ない」として、証拠保全の実施中に一部のソフトウェアが消去されていたことが明らかになっています)。今回の判決は、多くの情報がデジタル化されるデジタル情報化社会における侵害事実の認定に一定の方向を示すものとして、高く評価できるものです。
さらに、不正コピーが発覚した後にソフトウェアを購入すれば賠償責任は免れるという主張や、損害賠償が認められるとしても卸価格を基準とするべきであるという主張は退けられました。しかし、具体的な損害賠償額は、対象となったソフトウェア製品の正規品小売価格(×侵害数)とされており、このことは、侵害が発覚したら、予め正規にソフトウェアを取得した場合と同額の金額を支払えばよいという意識すなわち「侵害のし得」感を生み出す温床となる可能性があります。これを防ぐために、組織内で行われるソフトウェアの不正コピーの事案についても、悪質な場合には刑事罰の適用が必要であるとともに、「侵害のし得」を生じさせない民事的な救済制度を創設する必要もあると考えます。
今回のようなソフトウェアの不正コピーが、反復継続して行われると、ソフトウェアメーカーは対価を獲得することができず、新たなソフトウェアの開発に支障が生じてしまうだけでなく、今やソフトウェアがデジタル情報やコンテンツを生み出すのに必要不可欠なものになっている現実を鑑みると、わが国のデジタル情報産業全体の発展に悪影響を及ぼしかねません。
特に、今回の訴訟の対象となった企業は、コンピュータスクールを経営しており、ソフトウェアの使用方法を教授し、ソフトウェアの利用者を育てる業務を行っており、本来ソフトウェアの著作権についても教授し得る立場にありました。にもかかわらず、自らがソフトウェアの著作権侵害を行っていたことは極めて遺憾と言わざるを得ません。
わが国は、知的財産立国を目指し、昨年、知的財産基本法を制定するとともに、本年7月には「知的財産戦略推進計画」を立案し、その実施にとりかかっています。不正コピーを防止することは、知的財産戦略を実践する上の第一歩です。ACCSは、今後ともBSAなどと協力し、わが国のソフトウェアの不正コピーが減少するよう、ソフトウェアの適正な利用について、広くユーザーの皆様の理解を求めて参りたいと考えております。
以上
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